「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」に対するパブリックコメント(2026.7.7)

  • 公開日

「今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)」に対する意見
一般社団法人日本ペンクラブ
言論表現委員会委員長・環境委員会委員長・平和委員会

総論)原発新設を既定方針とする本案を撤回し、その必要性、合理性について国民的議論からやり直すべきである
本案は、2040年代までに大型炉換算で2~5基分、2050年代までに累計11~14基分を建設し、2060年代にも同程度のペースで建設することを「少なくとも必要」としている。これは、数十年にわたる原発新設を国家方針として固定し、建設費、事故リスク、放射性廃棄物、廃炉などの負担を将来世代に及ぼす重大な政策転換である。
東京電力福島第一原発事故の被害と廃炉が今なお続く中、原発の新設を先に決めるのではなく、事故の教訓、全費用、代替策、核のごみ、避難の実効性など、新設の必要性・合理性について情報を公開し、国民的な熟議を行うことが先である。本案の「原子力発電の見通し・将来像」と、それを前提とする新設支援、財政支援及び許認可の円滑化に関する記述を削除するよう求める。

1.原発新設の数値目標を削除すべきである
該当箇所:4~5頁「(0)原子力発電の見通し・将来像」
本案は、将来の電力需要について「正確に予測することは困難」と認めている。その一方で、2040年代及び2050年代も原子力発電が発電電力量の20%を占めること、設備利用率を70%とすることをあらかじめ仮定し、既設炉の減少分を差し引いて「必要」な建設量を算定している。
これは、原発比率20%という政策上の前提から原発新設の必要量を逆算したものであり、原発新設の必要性を独立して立証したものではない。結論を前提にした循環的な計算である。
原発比率を固定しても総電力需要が変化すれば必要な原発容量も変わる。電力需要が増加しない場合や減少する場合を含め、省エネルギー、需要調整、再生可能エネルギー、蓄電池、送電網、地域間連系線、分散型電源などを組み合わせた複数のシナリオを、同一の条件で比較すべきである。建設期間の長期化や計画中止を含む感度分析も公開しなければならない。
したがって、2040年代以降の建設基数及び設備容量に関する必要性は明らかでなく、記述をすべて削除すべきである。

2.建設費と事業リスクを国民に転嫁する制度を先に決めてはならない
該当箇所:12頁、21頁「事業環境整備・資金調達」
本案は、原発について、巨額の初期投資、長い建設・投資回収期間、将来収入の不確実性、バックエンド費用の不確実性、許認可上の不確実性があることを認めながら、「あらゆる制度・支援措置」を検討するとしている。
しかし、個々の建設計画の総事業費、発電単価、建設遅延や費用超過が生じた場合の負担者、電気料金及び税負担への影響、廃炉・放射性廃棄物・事故時賠償を含む全期間の費用は示されていない。
本案が参考例として挙げる英国のRAB方式は、原発の完成前から事業者に認可収入を与え、その費用を電力供給会社を通じて消費者から回収し、建設リスクの一部を消費者と共有させる制度である。資金調達方法を変えても、国民全体への総費用やリスクそのものが消えるわけではない。
国民負担を伴う支援制度を、抽象的な行動指針や閣僚会議だけで決めてはならない。支援制度を検討する場合には、個別事業ごとの総費用とリスク分担を公開し、独立した費用便益評価を行った上で、別途法律案を国会に提出し、国民的議論を経るべきである。それまでは、新設への財政・料金上の支援を約束する記述を削除すべきである。

3.核のごみと福島第一原発の問題を新設より優先すべきである
該当箇所:13~19頁「核燃料サイクル」「使用済燃料対策」「最終処分」
本案は、再処理工場の竣工・操業、使用済燃料の中間貯蔵能力の拡大、高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定などを、今後も進めるべき課題として列挙している。これは、原発のバックエンドが技術的にも社会的にも完結していないことを、本案自身が示している。
処分先が決まっていない使用済燃料を「再生可能な有用資源」と呼ぶだけでは、保管と処分の問題は解決しない。新たな放射性廃棄物を生み出す原発新設を決める前に、福島第一原発の廃炉、被災者への支援と地域再生、既に存在する使用済燃料及び放射性廃棄物の安全な管理と処分に、予算と人材を優先的に充てるべきである。
処分方法、処分地、費用負担及び長期管理の見通しについて、技術的・財政的・民主的な条件が整わないまま、さらに廃棄物を増加させる政策を優先させるべきではない。

4.安全規制と地元の意思を「事業上の不確実性」として扱ってはならない
該当箇所:8~12頁、21頁「既設炉の最大限活用」「許認可・地元理解の円滑化」
本案は、再稼働の加速、運転サイクルの長期化、運転中保全、検査の効率化、運転期間の延長、次世代革新炉の建設を同時に進めようとしている。さらに、投資の予見可能性を高めるとの理由から、立地段階の早期確認や許認可、地元了解に関する手続の円滑化を掲げている。
原子力規制委員会による安全審査と地域住民・自治体の意思確認は、事業者にとって取り除くべき障害ではなく、市民の生命、健康及び生活や環境を守るための不可欠な手続である。規制委員会の審査は政策とは独立させて進めるべきものであり、手続の透明性を高めることと、審査結果や地元の判断を政策目標に従属させてはいけない。
「予見可能性」や「円滑化」の名のもとに、規制機関の独立性、安全審査の内容、地元自治体の判断が弱められてはならない。地震、津波、複合災害、避難困難、テロ・サイバー攻撃などを含む最悪事態の評価と避難計画を、独立した第三者が検証し、資料と議事録を公開することを求める。

5.「建て替え」「理解・受容性」という言葉を改めるべきである
該当箇所:4頁、7~8頁、10頁、15頁、19頁
原子炉を新たに建設することを単に「建て替え」と表現すれば、それが新規の原子力施設を建設し、新たな事故リスクと放射性廃棄物を生じさせる政策であることが見えにくくなる。
政策文書では、「原発新設(既存サイト内のリプレースを含む)」と正確に記載すべきである。言葉は市民が政策を判断する前提であり、正確な表現は市民の知る権利を保障するための最低条件である。
また、本案が掲げる「理解・受容性を確保する」「理解活動を行う」という表現は、政府が決めた結論を市民に理解させ、受け入れさせる一方向的な発想である。政府の役割は政策への同意を作り出すことではなく、市民が自ら判断できるよう、利点と不利益、費用、事故、廃棄物、異なる専門家の見解を等しく公開することである。
これらの表現を、「賛否双方の情報公開、公開討議及び市民意思の政策への反映」に改めるべきである。
特に、教育現場や若年層を対象とする「理解促進」については、政府・事業者による一方的な政策広報とならないよう、賛否双方の資料の提示、資金提供者と利益相反の明示、独立した第三者による教材の検証を義務付けるべきである。

6.約30日間の任意の意見募集だけで、数十年に及ぶ政策を決めてはならない
該当箇所:意思決定過程全般
今回の手続は、e-Gov上も法定の意見公募手続ではなく「任意の意見募集」とされ、募集期間は約30日間に限られている。この手続だけで、2060年代以降まで影響する原発新設政策に民主的な正当性が与えられたとみなしてはならない。
日本原子力文化財団の2024年度調査でも、「原子力発電を維持・または増やしていく」とする新設に肯定的回答は17.3.%、「しばらく利用するが徐々に廃止、またはすぐに廃止」とする否定的回答は44.7%、「わからない」は 33.1%だった 。2025年度の調査では、設問をかえて「肯定的な回答」(42%)が「否定的な回答」(35%)を超えているが、新たな設問は原発利用についての一般的な質問であり、2050年代までに累計11~14基分を新設することへの賛否を問うものではない。肯定的回答も過半数には達しておらず、この結果を原発新設への国民的合意と解釈することはできない。
立地自治体だけでなく、避難計画に関係する周辺自治体、福島の被災者、電気料金や税を負担する消費者、若者及び将来世代の立場を含む全国的な公聴会を開催すべきである。推進・慎重・反対の立場を公平に含む専門家会議、市民会議及び国会審議を行い、その議事録と基礎資料を公開することを求める。
寄せられた意見については、類型化した回答だけで済ませず、主要な論点ごとに採否と理由を具体的に示し、その後に修正案を改めて意見募集に付すべきである。

7.原発比率を先に固定せず、再生可能エネルギーと省エネルギーを優先すべきである
本案は、原発による発電電力量を将来にわたり20%とすることを事実上の出発点としている。しかし、将来の電源構成は、特定電源の比率を先に確保する方式ではなく、費用、安全性、建設期間、環境負荷、事故時の被害、廃棄物、地域社会への影響を比較して柔軟に検討を続けるべきである。
これまで掲げられてきた「可能な限り原発依存度を低減する」との方針を復活させるとともに、再生可能エネルギー、省エネルギー、需要側対策、蓄電設備、送電網及び地域間連系線の整備を最優先とすべきである。
原発の運転や新設を優先することによって、再生可能エネルギーの導入や系統接続が妨げられてはならない。原発を含まない場合及び原発依存度を段階的に低下させる場合を含む複数の電源構成を提示し、全期間の費用とリスクを同じ条件で比較することを求める。

結論
以上の理由から、本案のうち、次の記述を削除するよう求める。
1.2040年代、2050年代及び2060年代の原発建設基数・設備容量
2.原発20%を固定して新設必要量を逆算する「見通し・将来像」
3.新設を前提とした「あらゆる制度・支援措置」
4.国民負担の内容を明示しないRAB方式等の導入検討
5.安全審査、許認可及び地元了解を「円滑化」する記述
6.市民に政策を受け入れさせることを目的とする「理解・受容性の確保」

本案をいったん撤回し、全費用、代替策、事故リスク、廃炉、放射性廃棄物及び将来世代への影響を公開した上で、国会審議と開かれた国民的熟議を行い、改めて意見を募集すべきである。それまでは、原発新設を政府方針として決定してはならない。

◆今後の原子力政策の方向性と行動指針(案)に対する意見募集
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/detail?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=620226017&Mode=0