歴代会長メッセージ

[歴代会長メッセージ]

吉岡忍第17代会長からのメッセージ 「自由――破局を免れる唯一の道」

 国際P.E.N.の創設にも、日本ペンクラブの創立にも、戦争が深く関わっています。敵への憎しみをあおり、侮蔑し、自分たちの正しさだけを言い募り、内なる異論を排除する風潮は、勝っても負けても、社会と文化を痩せ細らせる。多大な犠牲を払い、苦い経験を経て、先人たちはそう気づき、そこから平和への希求と言論表現の自由とは一体のものである、という教訓を引き出したのでした。

国際P.E.N.も、その支部としての日本ペンクラブも、もともとは文学者の活動でした。しかし、マスメディアの発達、創作活動の多様化、国境を越えて広がる情報テクノロジーの進展によって表現の場は飛躍的に拡大し、言論表現の自由は市民社会全体に関わる最重要課題になってきました。
 他方で、今日の世界には、グローバルなヒト・モノ・カネの移動がもたらしたさまざまな荒廃があり、戦争とテロの応酬もあります。これらが呼び起こす人々の不安は、自由よりも安全安心を求める趨勢となって、市民社会の姿を一変させないともかぎりません。
 それでもなお、いや、それだからこそなお、私たちは一人ひとりが自由に考え、自由にものが言え、自由に創作できる社会の実現をめざしたい。それこそが何よりの安全安心であり、ほんとうの豊かさであり、また破局を免れる唯一の道だと信じるからであります。

 
 

浅田次郎第16代会長からのメッセージ 「人類の利益」

人類の利益

国際P.E.N.の発足は第一次世界大戦後の1921年です。そして、私たち日本ペンクラブは1935年に、この国際P.E.N.の日本センターとして設立されました。以来、第二次世界大戦のさなかにも、交流こそ断たれたものの日本ペンクラブは文筆家の良心として存在しつづけ、80余年の歴史を刻んできました。

 けっして知識人のサロンではありません。偏った思想を持つ団体でもありません。私たちのめざすところは常に、言論・表現の自由と世界平和の希求です。ペンを握る私たちには、さまざまな原因によって引き起こされる暴力や戦争を阻止する使命があります。
 そうした高邁な理想を掲げる限り、会員には個人的利益などなく、ご支持・協賛いただく企業や新聞社・出版社等の賛助会員にも直接の利益はないかもしれません。しかしながら国際P.E.N.も日本ペンクラブも、多くの人々の理解と情熱によって、長い歴史を今日まで刻んできました。
 私たちの利益は、いつの時代にも、人類の利益でなければなりません。時の流れとともに、ともすれば人間は世界の平和よりも国家の繁栄を、社会よりも個人の利益を希むようになりました。しかし、こうした趨勢のなかで、日本ペンクラブはたゆみない活動をつづけています。私たち文筆家には使命があり、私たちの握るペンには、どのような兵器にも勝る実力があると信ずるがゆえです。
一般社団法人日本ペンクラブ 第16代会長 浅田次郎

日本ペンクラブ歴代会長の言葉から

 歴代会長、島崎藤村、中村光夫、井上靖、井上ひさしのメッセージです。

島崎藤村

 どんなに私たちが芸術を通して世界の人に結びつきたいと思っても、もし互いに交渉する道がなかったら、何によってそれが出来るでありましょうか。私は会員諸君が、この新しい機運を看過さないで、自国の文学の上にも生気をそそぎ入れられることを望んでやまないのであります。
(1935年/会長就任時の挨拶)

中村光夫

 ペンクラブを言論の自由を守る会にしたい。言論の自由は、ペンクラブの外でも内でも同じこと。「言論の自由」についての討論がいつでもできるようにしたい。だからといって、楽しみのない会にしたいとは思わない。楽しみのなかに大事なもの、「自由」を守る会にしていきたい。
(1974年/会長就任時の挨拶)

井上靖

 もう自分一人の幸福を求める時代は終わった。他の人たちが幸福でなくて、どうして自分が幸福になれるだろう。いまこそ、『孟子』の葵丘会議の故事にある、黄河の水を隣国に流し込んだり、兵器代わりに使ったりすることのないよう祭壇の前で誓いの盟約をした英知にならって、人間を信じ、人間がつくる人類の歴史を信ずる文学者の立場に立ちたい。
(1984年/国際P.E.N.東京大会開会式での挨拶)

井上ひさし

 私は日本国憲法を大事に思う一人として、このペンクラブ、つまり国際P.E.N.の一員であることに大変誇りを持っています。つまりペンクラブに属することと、日本国国民であるということは、「永久平和」というところでスムーズに一つに結び合って、融け合うわけです。ですから、日本国民であることと、日本ペンクラブの一員であることに、私は大変に名誉と誇りを感じております。
(2004年/京都例会での講演)