日本ペンクラブ第18代会長に桐野夏生氏 就任のご挨拶

日本ペンクラブ第18代会長に桐野夏生氏 就任のご挨拶

一般社団法人日本ペンクラブは2021年5月25日理事会で第18代会長に桐野夏生氏を選出しました。

 [就任のご挨拶]

 このたび日本ペンクラブの会長に就任いたしました、作家の桐野夏生と申します。女性初の会長ということですし、長い歴史を持つペンクラブという組織を代表することに、大きな責任を感じております。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。
 ペンのPは、Poet(詩人・俳人・歌人)、Playwrights(劇作家)、EはEditors(編集者)、Essayists(随筆・評論・翻訳・学者)、そしてNは、Novelists(作家)。これらを合わせて、PENと言い習わしております。
 つまり、文筆を生業としている者が、言論の自由、表現の自由を守るために、そして、世界の平和を希求するために集まり、言語の違いを超えて連帯しよう、という高邁な理想を持った組織であります。このことについて、私の年代は承知しておりますが、今の若い人の中には、知らない方も多いかもしれません。
 国際ペンがロンドンで生まれたのは、1921年。第一次世界大戦が契機でした。日本での誕生は1935年です。以来、第二次世界大戦をくぐり抜け、九十年近い歴史を刻んで参りました。それゆえに、良くも悪くも、組織としては堅固になった、とも言えましょう。
 しかしながら、今、世界はコロナ禍という大きな災厄を迎えております。ワクチンの普及によって、いずれは克服されるでしょうが、この災厄は世界中に大きな変化をもたらしました。
 それは、人々のコミュニケーション方法や仕事の在り方を、ドラスティックに変えてしまったことです。会議や授業はオンラインになり、会社に毎日通う必要もなくなりつつあります。もしかすると、紙による伝達方法も消える時が来るかもしれません。それも早く。
 そんな中、若い人の間ではSNSを使って繋がり、差別や分断、そして貧困と闘う術を見つけようと、草の根的な活動している人も多くいます。その気軽さと、誰でも参加できる身軽さは羨ましくもあります。
 これからのペンも、そういう若い人たちと問題意識を共有していることをアピールしていくことが大事なのではないか、と感じております。

桐野夏生

(写真:Keiichi-SUTO)

【略歴】
桐野 夏生
 1998年『OUT』で第51回日本推理作家協会賞、1999年『柔らかな頬』で第121回直木賞、2003年『グロテスク』で第31回泉鏡花文学賞、2004年『残虐記』で第17回柴田錬三郎賞、2005年『魂萌え!』で第5回婦人公論文芸賞、2008年『東京島』で第44回谷崎潤一郎賞、2009年『女神記』で第19回紫式部文学賞、『ナニカアル』で2010年第17回島清恋愛文学賞と2011年第62回読売文学賞、2021年に早稲田大学坪内逍遙大賞、2023年『燕は戻ってこない』で第64回毎日芸術賞と第57回吉川英治文学賞など多くの文学賞を受賞。2015年秋には紫綬褒章を受章。
 多くの作品が英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、インドネシア語等に翻訳され、映画化、TVドラマ化されている。国際的評価が高く、現代日本の文学界を代表する作家である。