日本ペンクラブ言論表現委員会 シンポジウム「『忖度』が奪う表現の自由」1月31日(水) 報告

日本ペンクラブ言論表現委員会 シンポジウム「『忖度』が奪う表現の自由」1月31日(水) 報告

 

 香山リカ         上野千鶴子(撮影 菅野勝男)     吉岡忍

主催 一般社団法人日本ペンクラブ

日時  2018年1月31日(水)    午後6時半開演(午後6時15分開場) 終演 午後8時半 (予定)

会場  文京シビックセンター・小ホール

 

<プログラム>(敬称略)

あいさつ:日本ペンクラブ言論表現委員長 滝田誠一郎

パネルディスカッション「『忖度』が奪う表現の自由」

コーディネーター 篠田博之 日本ペンクラブ言論表現副委員長

パネラー 吉岡忍   作家・日本ペンクラブ会長

上野千鶴子 社会学者・東京大学名誉教授 認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長 

香山リカ  精神科医・立教大学現代心理学部映像身体学科教授「9条俳句」市民応援団

久保田和志  「9条俳句」訴訟原告弁護団事務局長/弁護士
 ※原告女性 会場発言

<報告―速報版―> 滝田誠一郎日本ペンクラブ言論表現委員長

 1月31日午後6時半より文京シビックセンター小ホールで日本ペンクラブ言論表現委員会はシンポジウム「忖度が奪う表現の自由」を開催し、170名が参加した。
 滝田誠一郎日本ペン区阿武言論表現委員長の挨拶の後、篠田博之日本ペンクラブ言論副委員長の司会で、パネルディスカッションを開催した。
 パネラーは香山リカ、上野千鶴子、久保田和志、吉岡忍の各氏。
 まず、香山リカ氏が2017年6月の江東区で予定されていた講演が中止になった事例が紹介された。社協が主催者で、申し入れを行ったものの、「上が中止を決めましたから」ととりあってもらえなかった。講演中止に追い込んだツイートや電話は非常にシステマチックに行われた嫌がらせであり、講演会を中止されるのは、差別主義者のご意向に沿うことだと断罪。
 パネラー2人目は上野千鶴子氏。「忖度」によって奪われた表現の自由の事例を列挙し、特に地方自治体でのバックラッシュについて説明があった。
またこれらの対策として、ソーシャルメディアを活用することはかなり役に立ったとの説明があった。
 パネラー3人目は「九条俳句問題」の担当弁護士、久保田和志氏が事実経過の説明し、「主婦」作った俳句[梅雨空に「九条守れ」の女性デモ](会で選句されたもの)が、公民館だよりで掲載できないと連絡があったことが発端となった。俳句の作者もコメントし、年齢的にも、知識もないしお金もないから裁判は考えられなかったが、支援者の人たちに後押しされて決意した。一審は勝訴。掲載の申し入れをしても拒否され、控訴されている。
 続いて、吉岡忍日本ペンクラブ会長が「公共」にはいろんな意見がある。それを許さない風潮があって、だから世の中がフラットになっている。抑圧的な空気が、今の日本に広がってきているのではないかと指摘した。
 客席にいた浅田次郎日本ペンクラブ前会長が発言し、忖度はもともと悪い言葉じゃないと指摘しつつ、中国で講演が前日に中止になった経験を紹介し、日本企業が手を上げて翌日講演ができたことについて、自分1人では何もできないが、そういう支援してくれる人がいることが大事であることを指摘した。
 休憩後の討論では、まず上野千鶴子氏から、行政権力による言論の抑制にどう立ち向かうかが大事であるとの提言があり、行政担当者に対するコンプライアンス教育の徹底、行政の場合は文書にするなど、法律について正しい知識を得る、使えるなら警察の力も借りるなどで、市民も戦いかたを覚えないといけないと指摘。
 香山リカ氏は、学生の親を騙って大学や教員にクレームをつけたりしているなど手口が巧妙になってきて、それが一定の力を持ちはじめていると実態を知る重要性を述べた。大切なことはクレームを抑えることや避けることではない。クレームや抗議の自由はあるが、安易なイベントの中止などは逆に大きな社会問題になり、萎縮、忖度、自主規制は彼らの思うツボであると指摘した。
 九条俳句問題の久保田弁護士は「中立公正性とは、多様な民意を認めること。不当な介入を許してはいけない」と述べた。
 吉岡忍氏は、「対立する意見があると、往々にして対立する二つの意見がある時に両論併記をするが、それは情報処理にすぎない。書き手にとってはそれが一番簡単で、大手のマスコミもそれをやるが、書き手とは本来そうはいかないものである、中立性というのは取材不足であり、自信がないから中立性を装う。中立性と言いつつ、取材不足であり安易。行政がいかに言論を押さえつけようとしている。そのこと自体をドキュメントとしてできないかなと思う」と述べた。
 会場からの様々なコメントや、公共空間での表現の自由が狭まる他の事例が紹介され、さらに深い議論ができそうななかで、時間切れとなった。