日本ペンクラブシンポジウム 「憲法と表現の自由」の現在と未来  10月16日に開催されました。

日本ペンクラブシンポジウム 「憲法と表現の自由」の現在と未来  10月16日に開催されました。

 日本ペンクラブシンポジウム『憲法と表現の自由の現在と未来』が、日本ペンクラブ言論表現委員会により、2018年10月16日18時45分から文京シビックホール小ホールにおいて開催された。入場者は150人強。

 プログラムは二部制で、滝田誠一郎言論表現委員会委員長の開会宣言のあと、第一部「表現者にとっての憲法と表現の自由」がはじまった。司会は村田佳壽子言論表現委員。

 石田純一さん(俳優/日本ペンクラブ会員・言論表現委員)、古田大輔Buzz Feed Japan 創刊編集長)、古谷経衡さん(文筆家/日本ペンクラブ会員)、望月衣塑子さん(東京新聞社会部記者)、有田芳生さん(参議院議員/ジャーナリスト)の順にご登壇いただき、それぞれの立場から表現の自由について思うところを語っていただいた。

 石田純一さんは、俳優としての立場から、テレビのワイドショーでの政治的発言により番組を降板させられた体験を語り、さらに現行の憲法改正の草案では基本的人権の尊重が削られようとしていることにも言及。
 古田大輔さんは、最近読んだ『民主主義の死に方―二極化する政治が招く独裁への道―』(スティーブン・レビツキー/著、ダニエル・ジブラット/著、濱野大道/訳 新潮社)などを例に挙げながら、『表現の自由」を守るものは、法や議会といったルールや制度だけではなく、規範であり、それを守ろうとする人々の価値観や意識であることをわかりやすく解説した。
 古谷経衡さんは、インターネット空間におけるネット右翼を研究してきた立場から、ヘイトスピーチに対する考えを語った。人を差別したり傷つけたりするような言動は「言論表現の自由」の外にあるもので、そのことを言い続けていく必要があると訴えた。また最近の『新潮45』を例に挙げ、両論併記の際に、差別主義者を連れてきたことに強い憤りを感じたと発言した。
 望月衣塑子さんは、新聞記者の立場から官邸で首相の記者会見が減ったこと、挙手しても質問を全く受け付けられない記者がいることなど、情報がコントロールされている実態を身振り手振りを交えて熱弁。登場する政治家の口調を真似たユーモラスな語り口に会場から笑いがもれた。
 有田芳生さんは、若いころ影響を受けた川端治(山川暁夫)さんから「ものごとには現象と実態と本質があり、実態を明らかにすることがジャーナリズム」と教えられた経験をもとに、最近の沖縄の県知事選を通じて見えたジャーナリズムのあり方について語った。「沖縄タイムス」と「琉球新報」が県知事選に際してファクトチェックを行ったことを挙げ、今後はこうした報道活動がさらに必要になっていくだろうという考えを示した。

 第二部は日本ペンクラブ山田健太専務理事の進行で、古田さん、古谷さん、望月さん、有田さんによる座談会「憲法と表現の自由の現在と未来」。
以下、それぞれの発言のエッセンスを記しておく。(写真中央は山田氏)


古田「日本では(言論表現によって)投獄されている人はいない。表現の自由が認められていて、投獄されている人がいないにもかかわらず、自由にものが言えないのは問題だと思う」
古谷「僕もそう思います。こんなに守られているにもかかわらず、忖度し、無難なことしか言えないことが多いのはどうなのかな、と」
望月「現政権はテレビ局に対してクレームをつけ、批判する人を降板させるということが増えてきている」
古田古谷「そういうことがなぜメディアに出てこないのか」
有田「オウム死刑囚の死刑執行の時のジャーナリズムの対応は異常だった。与えられた情報をそのまま流し、それについて検証されていない現状はどうなのか」
古田「今、知りたいことを調べて伝えるのが報道機関の使命。でも現実は速報合戦になっていて、そこに人員が割かれている」
古谷「特にテレビの現場では内省するほどの余裕がない。とにかく忙しい。人的資源が足りないのが現実」
古谷「若者はテレビを観ない、新聞を読まないと言われるが、ネットを通じて間接的に既存メディアに接している。90%くらいは既存メディア」
古田「若者のニュース離れではなく、ニュースの若者離れではないか。読んでもわからない言葉で書いても、誰も読まない」
古谷「若者も加齢していくと政治的な意識を持っていく生き物ではないか?」
古谷「沖縄県知事選の時にフェイクニュースが流れていたけど、僕の若い時もそうだった。根拠のない話を『みんなが言ってる』とデマを信じていたことはある」
古谷「大手メディアはネット上のフェイクの出所がどこで、どういう背景があるのかをきちんと解説していかないといけない」
望月「自分のことで政治部に圧力がかかった時に支えてくれたのは一般の読者だった。それを一緒に共有していただきたい」
古田「(情報の)戦場はネットにある。紙の世界に留まっている限り、20代、30代にリーチするのは難しい。ネットで活動していかないと届かない」
有田「ファクトチェック、ニュースチェック、若い人たち向けにいろんなメディアでやっていってほしい」
山田「ジャーナリズム活動の下支えをしているのが制度としての「表現の自由」。この2つは、民主的な社会を維持するための車の両輪」 
 最後は日本ペンクラブ吉岡忍会長による閉会の挨拶。11月10日に高松市で行われるシンポジウム「ふるさとと文学2018~菊池寛の高松」の紹介から始まり、菊池寛の時代に起こった戦争までの経緯と背景について簡潔に語り、「民主主義を謳歌していた時代からわずか7年で国による言論統制が完成した。わずか7年です。そのことを忘れてはならない」と結んだ。

(文責:言論表現委員会委員長 滝田誠一郎)

 

《出演者プロフィール》
有田芳生(ありた・よしふ)
1952 年京都市生まれ。立命館大学経済学部卒。参議院議員、ジャーナリスト。2007 年まで日本テレビ系「ザ・ワイド」に出演。著書に『私の家は山の向こう―テレサ・テン十年目の真実』(文春文庫)、『ヘイトスピーチとたたかう!―日本版排外主義批判』(岩波書店)など。2010 年参議院議員初当選(現在2 期目)。
石田純一(いしだ・じゅんいち)
1954 年生まれ。1980 年代より数々のトレンディードラマに出演し人気を博す。バラエティ、映画、舞台、ニュースキャスターなど様々なジャンルでも活躍。2015 年には法務省矯正支援官に就任し、犯罪や非行をした人の改善更生や社会復帰が円滑に行われるための社会活動にも積極的に取り組んでいる。主な著書に「マイライフ」(幻冬舎)ほか。
古田大輔(ふるた・だいすけ)
1977 年福岡生まれ。早稲田大卒。2002 年朝日新聞入社。社会部、東南アジア特派員、シンガポール支局長、デジタル編集部を経て2015 年退社。同年、BuzzFeed Japan 創刊編集長に就任。ニュースからエンターテイメントまでカバーする多様なメディアにおいて、調査報道やファクトチェックにも力を入れている。
古谷経衡(ふるや・つねひら)
1982 年札幌市生まれ。立命館大学文学部卒。2010 年から文筆業開始。インパール、フィリピンなど戦史取材からネット右翼分析、アニメ評論まで幅広く執筆する。テレビ・ラジオコメンテーターとしても出演多数。近著に『日本を蝕む極論の正体』(新潮新書)、『女政治家の通信簿』( 小学館新書)、長編小説『愛国奴』(駒草出版)。
望月衣塑子(もちづき・いそこ)
1975 年東京都生まれ。東京・中日新聞社会部記者。慶応大学法学部卒。千葉、神奈川、埼玉の各県警、東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。2004 年、日本歯科医師連盟のヤミ献金疑惑の一連の報道をスクープし、自民党と医療業界の利権構造の闇を暴く。著書に『武器輸出と日本企業』( 角川新書)、『武器輸出大国ニッポンでいいのか』( 共著、あけび書房)。
山田健太(やまだ・けんた)
1959 年京都市生まれ。専修大学文学部(人文・ジャーナリズム学科)教授。専門は言論法、ジャーナリズム論。早稲田大学 大学院ジャーナリズムコース、法政大学法学部等でも講師を務める。近著に『放送法と権力』『見張塔からずっと』(いずれも田畑書店)。日本ペンクラブ常務理事。

憲法と表現の自由(Webちらし0926)