日本ペンクラブ声明「緊急事態だからこそ、自由を」
感染拡大する新型コロナウイルスと政府による緊急事態宣言。日本社会はいま、厳しい現実に直面している。
私たちは、命のかけがえのなさを改めて噛みしめたい。各分野の医療関係者が蓄積してきた技術と知見を信頼し、それらが十二分に発揮されるよう期待する。また、私たち自身が感染しない冷静さと、他者に感染させない配慮とを併せ持つ人間でありたいと思う。
そして、私たちは、こうした信頼・期待・冷静・配慮が、人と人が自由に発言し、議論し、合意を築いてきた民主主義社会の営為そのものであり、成果でもあることを何度でも確認しておきたい。
緊急事態宣言の下では、移動の自由や職業の自由はもとより、教育機関・図書館・書店等の閉鎖によって学問の自由や知る権利も、公共的施設の使用制限や公共放送の動員等によって集会や言論・表現の自由も一定の制約を受けることが懸念される。
これらの自由や権利はどれも、非常時に置かれた国内外の先人たちの犠牲の上に、戦後の日本社会が獲得してきた民主主義の基盤である。今日、私たちはこうした歴史から、どんな危機にあっても、結局は、自由な言論や表現こそが社会を健全にしてきたことを知っている。
私たちの目の前にあるのは、命か自由かの選択ではない。命を守るために他者から自由に学び、みずから自由に表現し、互いに協力し合う道筋をつくっていくこと。それこそが、この緊急事態を乗り越えていくために必要なのだ、と私たちは考える。
いつの日か、ウイルス禍は克服したが、民主主義も壊れていたというのでは、危機を乗り越えたことにはならない。いま試されているのは、私たちの社会と民主主義の強靱さである。
2020年4月7日
一般社団法人日本ペンクラブ
会長 吉岡 忍