日本ペンクラブ声明「侮辱罪の拙速な厳罰化が言論表現の自由を脅かすことを憂慮します」
- 2022.04.07
- 声明
侮辱罪の法定刑に懲役刑を加えて厳罰化する刑法改正案が、今国会に提出されました。
今回の法改正は、ネット上における誹謗中傷の深刻化を防ぐことを主な目的としています。ここ数年、ネット上の誹謗中傷がエスカレートし、自死に追い込まれる被害者を生むまでになっている状況は、看過できません。ネット上の誹謗中傷により、個人の尊厳が踏みにじられるような状況を改善するために、一刻も早く対策をとるべきです。しかしながら、侮辱罪が表現行為を罰するものである以上、その厳罰化によって言論・表現の自由が不当に制限されることはあってはならない、と私たちは考えます。権力者や政府の政策等に対する批判・批評が規制される事態を強く憂慮します。
侮辱罪の厳罰化において、ネット上の誹謗中傷問題の解決と、言論・表現の自由の不当な侵害の回避を両立させるためには、本来、慎重な議論を積み重ねなければならないはずです。ところが、今回の改正案は、法制審議会で実質2回、合計2時間の議論のみでまとめられたものです。最低限必要な議論すらなされているとは思えません。
日本ペンクラブが加盟する国際P.E.Nは、P.E.N憲章4条で「会員たちはみずからの属する国や社会、ならびに全世界を通じてそれが可能な限り、表現の自由に対するあらゆる形の抑圧に反対することを誓う。」と宣言しています。
表現者の集団として、日本ペンクラブは、今般の侮辱罪厳罰化によって言論・表現の自由が脅威に曝されることを懸念し、国際基準を鑑みた更なる慎重審議を強く求めます。
2022年4月7日
一般社団法人日本ペンクラブ
会長 桐野 夏生