《ふるさとと文学2023》~異郷としての日本~

《ふるさとと文学2023》~異郷としての日本~

異郷――それは、故郷や母国から遠く離れた土地、見知らぬ人々の暮らす場所。

 それはまた、人が死んでから行くと考えられている他界。あるいはそれは、よく知っているつもりの街、慣れ親しんでいるはずの日常がふいに覗かせる、意想外の相貌のことでもあります。遠方の世界にも、足もとの暮らしにもある異郷に向き合い、表現することが文学の仕事のすべて、といっても過言ではありません。
 伊豆を愛したノーベル文学賞作家・川端康成(日本ペンクラブ第4代会長)は「伊豆は詩の国であると、世の人はいう。伊豆は日本歴史の縮図であると、或る歴史家はいう」と書き起こし、ならば自分にとっては何であるか、と自問した。彼が異郷の伊豆で目を凝らしたのは、数々の火山や海岸線の岸壁の「男らしい力」と、いたるところに湧き出る温泉の「女の乳の温かい豊かさ」、両者が織りなす「命」のあや(川端「伊豆序説」1931)。この異郷の凝視から、何編もの名作が生まれました。

 さて、ひるがえって現代の日本。
あらゆる景観、すべての出来事が刻々と、細大漏らさずデジタルデータ化されている。膨大な情報はフラットに広がり積み重なって、どこにももう異郷などないように思われるかもしれません。しかし、異郷を失ったとき、異郷を見つめるまなざしが曇ったとき、すぐ足もとにある異郷が目に入らなくなったとき、私たちの力、私たちの豊かさ、私たちの命も枯れていく……。異郷はまた、私たちが生きることそれ自体のエネルギーの源泉でもあるのです。
《ふるさとと文学2023》「異郷としての日本」は、魏志倭人伝、マルコ・ポーロのジパングから近年のインバウンド需要や難民受け入れ問題まで、見ること、見られることを通じて、この日本がいかに生きるエネルギーを得てきたか、あるいは与え、奪ってきたか、そこにあった発見の驚きと感動、常識の揺らぎと転覆、ときには違和と反発、これらすべてがつくり出す世界の広がりとは何だったか――を、映像と語りと音楽、朗読劇、シンポジウムで多彩にくり広げ、問いかけます。

《ふるさとと文学2023》~異郷としての日本~

日時:2023年10月15日(日)13:00~17:00
場所:アクシスかつらぎ(静岡県伊豆の国市古奈255)

定員600人(先着順)/ 参加費無料

申込方法
伊豆文学祭ホームページ
https://www.pref.shizuoka.jp/kankosports/bunkageijutsu/bunkaevent/1041162/1044467/1056377.html
申込フォーム
https://forms.gle/hjpQLkLUHtN4XNwSA
※ペンクラブ会員のお申込みは会報に同封のお知らせをご覧ください。

問い合わせ
 日本ペンクラブ事務局  TEL 03-5614-5391

 主催:静岡県/伊豆文学フェスティバル実行委員会/伊豆のふるさとと文学2023実行委員会
 後援:伊豆新聞本社/静岡新聞社・静岡放送/読売新聞東京本社

プログラム
第1部 映像ライブステージ「鏡のなかのニッポン」

構成脚本】 吉岡忍(よしおかしのぶ)
作家。長野県出身。1986年『墜落の夏一日航123便事故全記録』で講談社ノンフィクション賞受賞。日本ペンクラブ前会長。

映像制作】 四位雅文(よついまさふみ)
映像作家。北海道大学大学院卒。米国CBS­NEWS等を経て映像作家として独立。CG等を駆使した舞台アート表現に新境地を開拓。

語り】 山根基世(やまねもとよ)
元NHKアナウンサー。退局後は地域作りと言葉教育を組み合わせた活動を続けている。放送文化基金賞など受賞。

松平定知(まつだいらさだとも)
元NHKアナウンサー。1969年NHK入局。「TVニュース」「その時歴史が動いた」「ラジオ深夜便・藤沢周平作品朗読」「NHKスペシャル」ほか、キャスター、ナレーションを含め100本以上を担当。2007年にNHK退局後はTBS「下町ロケット」のナレーションなど。京都芸術大学教授。

演奏】 佐藤久成(さとうひさや)
ヴァイオリニスト。東京藝術大学卒。1994年にベルリン交響楽団ソリストデビューするや稀なる鬼才と絶賛される。


第2部 朗読劇「補陀落渡海記」原作:井上靖

脚本演出】 坂手洋二(さかてようじ)
劇作家、演出家。劇団「燐光群」主宰。岡山県出身。岸田國士戯曲賞、鶴屋南北戯曲賞、読売文学賞、紀伊國屋演劇賞、朝日舞台芸術賞、読売演劇大賞最優秀演出家賞などを受賞。

朗読出演】 中村敦夫(なかむらあつお)
作家、俳優。1940年、新聞記者の長男として東京に生まれ、戦時中は福島に疎開。作家監督、脚本家、元参議院議員。日本ペンクラブ理事。

猪熊恒和(いのくまつねかず)
1984年燐光群に入団。ほぼ全作品に出演。新国立劇場『マッチ売りの少女』等、外部出演も、映画『関ケ原』、NHK『透明なゆりかご』など多数。


第3部 シンポジウム「異郷としての日本」

パネリスト】 楊逸(ヤン・イー)
作家。中国ハルピン生まれ。1987年留学生として来日。お茶の水女子大学文教育学部卒業。中国語新聞の記者、中国語教師を経て、 2007年小説『ワンちゃん』で文学界新人買を受裳し作家デピュー。2008年『時が滲む朝』で第139回芥川裳受裳。日本大学藝術学部教授。

グレゴリー・ケズナジャット 
作家。米国サウスカロライナ州生まれ。2007年外国語指導助手として来日。2017年同志社大学大学院文学研究科国文学専攻博士後期課程修了。2021年『鴨川ランナー』(講談社)で第2回京都文学賞を受賞。2023年『開墾地』(講談社)で第168回芥川賞候補となる。法政大学グローバル教養学部准教授。

デビット・ゾペティ 
作家。スイス生まれ。高校時代から独学で日本語を学び、1986年から日本在住。同志社大学卒。1996年、『いちげんさん』ですばる文学賞を受賞、芥川賞候補となる。同作品は映画化される。日本語で執筆を続けながらリフレクソロジストとしても活動中。

進行】 佐藤アヤ子(さとうあやこ)
東京都出身。明治学院大学名誉教授、翻訳家。翻訳書に『またの名をグレイス』(マーガレット・アトウッド)など。

挨拶】 桐野夏生(きりのなつお)
日本ペンクラブ会長。石川県出身。1999年『柔らかな頬』で直木賞受賞。ほか文学賞多数。
(写真・須藤敬一)